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秋晴れの埼玉スタジアム2002、高校・ユースの日本一を決める大舞台で、トリコロールの選手たちは次々とネットを揺らした。それは、まるでクラブ初の快挙を祝うかのようなゴールラッシュだった。セットプレー、ミドルシュート、大胆なサイドチェンジ、ショートパスをつないでの完ぺきな崩しと、多彩な攻撃から重ねたゴールは7。横浜F・マリノスユースはこれまで言われ続けてきた「決定力不足」を振り払い、頂点に駆け上がった。

 試合開始のホイッスルが鳴るやいなや、横浜FMは素早い出足でプレスをかけ、ジュビロ磐田ユースを圧倒。開始数分も経たないうちにゲームの主導権を握った。だが、横浜FMはいきなりつまずく。4分に最初の決定機を作り出すものの、小野裕二のシュートは枠をとらえられなかった。「これが(決定力不足の)始まりかも」。記者席からそんな声が聞かれたように、いつもの悪癖が顔をのぞかせた。そう思った矢先、この試合のターニングポイントはいきなり訪れた。

 左サイドでFKを得ると、天野純のクロスに飛び込んだのは小野だった。最初の決定機を逃したミスを帳消しにする先制弾。密集するゴール前、169センチの小兵はDFの間に割って入り、ヘッドで先制点を奪う。「1点目が大きかった」とチームメートの熊谷アンドリューが振り返ったように、開始わずか6分でのゴールが、これまで決定力不足に泣いてきた選手たちに勢いをもたらした。
 エンジン全開の横浜FMは続く9分には大きなサイドチェンジからエースの関原凌河がファインゴールを決めてリードを広げると、前半終了間際には高橋健哉がミドルシュートを突き刺し、スコアを3-0とする。勝負は前半45分で決した。
 
「ここまで大勝するとは、点差が開くとは思いませんでしたが、彼らの特徴でもある、調子がいいときの得点力が今日は出ました」
 試合後の松橋力蔵監督のコメント通り、横浜FMはこの試合で自分たちの持ち味を存分に発揮した。準決勝の三菱養和SCユース戦では「決定機に外すのがうちの特徴」と苦笑しながら発したが、それがうそのような圧勝劇だった。磐田との間に結果ほどの実力差はない。7-1というスコアには多分に偶然性も含まれている。後半のゴールは重圧から開放されたがゆえに生まれたものだ。


フィジカルトレーニングの成果
横浜FMと磐田、両チームの明暗を分けたのは日々のトレーニングであり、そこから来る自信ではないだろうか。磐田が不十分だったと言うつもりは毛頭ない。ただ、横浜FMは決勝に臨むにあたって目を見張ったのがフィジカル面での充実だ。
 互いに準決勝を延長戦、PK戦まで戦い抜き、休息は中1日と条件は同じ。だが、磐田は明らかにコンディション不良だった。疲労からか出足が鈍く、立ち上がりから後手に回る場面が目立った。一方、横浜FMには体力的な不安は一切感じられなかった。その背景にはこれまでの積み重ねがある。

 今年、松橋監督の就任後、横浜FMのトレーニングは変わった。指揮官が「このチームを立ち上げた2月から6月いっぱいまで、選手はハードなトレーニングを続けてきました」と話せば、小野も「オフ明けからけっこう走りました。走る量はだいぶ違う。去年までは大事な試合前には練習量を落としてきたけど、今年はプリンスリーグの合間でも練習は変わらなかった」と説明する。1年生ながら中盤の底を任される熊谷もトレーニングのたまものと口にし、「体力には自信があります」と胸を張った。その熊谷は開始直後、すぐに「運動量は負けてない」と感じたという。

 クラブユースは高校と比べ、フィジカル不足を指摘されることがしばしばあるが、横浜FMに限ってはどうやら当てはまらないようだ。技術は申し分ない。体力にも自信がある。そして小野が「国立の準決勝の方が緊張した。決勝は楽しくのびのびやれた」と言うようにメンタル面での成長もうかがわせた。
 もともとポテンシャルは高いチームとあって、波に乗れば怖いものはない。それをこの大一番で発揮できたことに価値がある。心技体の充実――悲願の優勝を手にした横浜FMにはこの言葉がふさわしい。

 今回のユースチームから来季トップに昇格する選手が現時点でいないのは残念だが、今大会で1つの成果を収めたことはクラブの育成システムにとって大きな糧(かて)となることは間違いない。そして何より、選手自身にとってかけがえのない財産になった。
 最上級生の関原は「これからどこでサッカーをするか分からないけど、(新天地で)活躍してまたマリノスのユニホームを着たい」と将来への抱負を語りながら、クラブへの愛着心も示した。この日、輝いたトリコロールの選手たちは今後どのようなサッカー人生を歩むのか。その成長を見守りたい。
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