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1-1のまま迎えたPK戦、先攻の横浜F・マリノスユースの2番手・天野純が失敗。三菱養和SCユースは3人目まで全員が成功し、横浜FMは窮地に立たされた。流れは、後半に1人退場者を出しながらももちこたえた三菱養和に傾く。もはやこれまでか……。だが、最後に笑ったのは横浜FMだった。三菱養和の4人目、田中豪紀のシュートミスに救われると、サドンデスに突入したPK戦を制し、横浜FMが決勝の舞台、埼玉スタジアムへの切符を手に入れた。

 Jユースの名門ながらも、近年の横浜FMはその伝統にふさわしい結果を残せなかった。最後に高円宮杯で決勝に進出したのは1995年と10年以上も前のこと。横浜FMに向けられる関係者の言葉は、「いいチームなんだけどね」というのが決まり文句だった。今年もプリンスリーグ関東では、優勝したFC東京U-18に最終節で力負けして3位。日本クラブユース選手権でも、優勝したセレッソ大阪U-18に0-1で敗れてベスト8止まりと、なかなか結果を残せなかった。

 最大の問題は決定力不足にある。松橋力蔵監督が「ウチは(点が)入らないのが特徴。決定的チャンスをつくっても決められない」と自嘲(じちょう)気味に話すように、チャンスを確実にゴールに結びつけることに難がある。個人のスキル、攻撃の崩しという点では他チームに見劣りしないが、肝心のゴールが遠い。それはこの試合でも顕著だった。決定機の数は三菱養和を上回ったが、結局奪ったのは1点だけ。もう少し決定力があれば試合は90分で終わっていたのに。そう思わせる場面が何度もあった。

 だが、春から夏にかけて悔しい思いをした選手たちは、大舞台で一回り大きくなった姿を見せた。成長の跡は前半39分の先制点のシーンからうかがえる。このゴールは攻守の素早い切り替え、相手のすきを突く判断力から生まれたものだった。
 相手陣内でFKを獲得すると、高橋健哉はクイックスタートを選択。次の瞬間、「健哉と目が合った」という関原凌河がボールを受け、内に切れ込むドリブルからファインゴールを決めた。松橋監督が「リスタートは選手の判断が早かった。共通意識、同じスイッチが入った結果でしょう」とたたえれば、関原は「リスタートは早くしようと決めてます。僕らは大きくないのでセットプレーでDFがそろわないうちにつなぐ方が多い。(後藤)拓斗が後ろを回ってくれたので、流し込んだだけでです」と、チームの狙いを強調した。

 実はこのゴールには伏線がある。ほんの数分前にも、横浜FMはクイックリスタートから絶好機を作り出していたのだ。最初のチャンスはシュートミスに終わったが、一度失敗しても、機を見て再びトライする。きれいにパスをつないで崩すだけではない、際どい勝負をものにするためのしたたかさを横浜FMは身に付けていた。


松橋監督は今年からユースチームを率いることになったが、指揮官の狙いは着実に浸透している。
 チームの変化について、松橋監督は「サッカーはこれまでよりもダイナミックになっていると思います。細かくつないでいくことはウチの特徴でもあるし、しっかり崩してゴールを奪うという狙いは変わらずあります。ただ、それだけだと小さいサッカーになってしまうので、チャンスがあるところをしっかり見る、そこに正確なキックでパスを供給することを意識させています。細かいサッカーからダイナミックなサッカーへの移行を図り、それが(高円宮杯の)グループリーグからうまくいき始めました」と説明する。

 三菱養和戦でも、そのダイナミックさは感じられた。後方からのビルドアップだけでなく、チャンスと見れば最終ラインから一発のロングフィードを前線に送ることもためらわない。小手先のうまさではなく、状況によっては大きな展開からゴールに向かう。プレーにメリハリが出たことで、チームの幅は広がった。関原も「できるだけ速くシンプルに攻める形ができてきた。1本でも裏を取れればいいっていう感じですね」と手応えを口にしている。

 決定力不足という課題はいまだ解消されていないが、横浜FMは単なる「いいチーム」からの脱却を図りつつあるようだ。いい意味で、勝利を追及する厳しさ、たくましさが備わった。延長戦を戦い抜き、PK戦で競り勝ったチームに、もう勝負弱いイメージはない。

 頂点まで残すはあと1勝――。関原は「これまではリベンジという気持ちでやってきたけど、ここまで来たら優勝するしかない」と意気込んだ。「このチームが立ち上がってから、全国の3つのタイトル(高円宮杯、クラブユース、Jユースカップ)のうち1つは必ず手に入れようと選手に話をしてきました。やっとそれが手に届くところまで来ました」とは松橋監督の弁だ。

 ただ、決勝に向けては「もちろんゲームなので戦略を練ったりするが、選手にその情報は与えない。今の彼らのシステムで、今のポジションで、どんな相手に対してもプレーできるかどうかが一番大切。僕はそこに手を加えられない」とユース年代の指導者らしい答えが返ってきた。
 優勝するために、自分たちのサッカーをするために、何をすればいいのか。その答えは選手自らが出すしかない。
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